ついに訪れた近所の蕎麦屋
京都ではただいま桜が満開でございます。
わたくしの住まいの近いところに、数年前でしょうか、蕎麦屋が出来ました。
ところがその蕎麦屋が繁盛しないらしく、店の前で主人が腕を組んで突っ立っておられるところを、お店を通る度に何度も目撃しておりました。
そこで「近未来この蕎麦屋はきっと潰れるに違いない」と思い、蕎麦好きのわたくしとしては、これは潰れる前に一度は食べておかねばなるまいぞと思っておりました次第。
ところが、ある日をさかいに突然お店が大繁盛。休みの日には行列が出来る始末。
なんでも後から知りましたところによると、かの有名なミシュランガイドにこの蕎麦屋が掲載されたのだそうです。
繁盛する前の蕎麦屋をしっているわたくしとしては、この行列に並んで蕎麦を食べることは、何となくミシュランガイドの持つ権威に迎合したかのような気がして、あえて来店を避けておりました次第。
蕎麦屋の前を通りかかると、客が一人もおらず、お店も開いている様子。
戸をがらがら開けて、顔だけ出して「やってますか?」と尋ねると、厨房にいる蕎麦一筋といった風のご主人が「どうぞ」と、聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声で入店を促して下さるので、不意のことで迷っていたものが、入店することとなった。
お店はお座敷になっていて、古民家を改装したもののようである。靴を脱いで座敷に上がると、手前からふたつめの席に座ることにした。
すると奥さんが襖を開けて出てきて、お品書きを渡して下すった。
お品書きのタイトルは「できますもの」ときた。
「ざるそば」だけ頼むというのもなんとなく素っ気ないような気がして、おビールの小グラスを注文することにした。
ご主人はさっそく蕎麦の準備をはじめたようだが、おビールはほどなく出てきた。
写真左下の小皿に出されたものは「わさびの醤油付け」だそうで、食べるとわさびの味がほんのりと香っておいしい。
おビールを飲んでしまうと、今度はわさびとおつゆが運ばれてきて、わさびはなんと自分ですり下ろして入れる式のようだ。
ご主人がすり下ろしてから出したってよさそうなものだが、「チューブじゃないよ」というアピールもあるのだろうか?自分ですり下ろす生わさびはなんとも味わい深く、蕎麦が到着するまでのあいだ、ちょっとすり下ろしては舐め、ツーンと込み上げてくるものを楽しんだ。
そうこうしているとざる蕎麦が到着。
蕎麦はもちろん十割の蕎麦だ。
一口つるっと食べてみる。
「う、うまいっす!」
こしがあってつるつるしこしこ!これは絶品どす!
それからは、蕎麦が少しづつ無くなっていくのを惜しみながら、ゆっくりゆっくりと、よくよく味わって食べた。
蕎麦がもうあとひと口で無くなろうかというところで、見ていたわけでもないのに、絶妙なタイミングで奥様が蕎麦湯を持ってきて下さった。
蕎麦を食べ終わり、おつゆにこの蕎麦湯を入れて一口飲んでみると、思わず顔がにんまり。これがまた驚いた。
「そ、そば湯うまいっす!」
蕎麦粉十割だからかものすごく濃厚な蕎麦湯で、こんなうまい蕎麦湯は初めてかもしれん。
天一のスープ並に濃いかもしれん。この蕎麦湯だけ飲んでても生きて行けそう。
そんなわけで、大満足でお店をあとにしたのであった。
「杣屋」も相当うまいと思っていたが、このお店もすごいどすえ!
余談だが「杣屋」の「山菜の天ぷら」が好物であったが、無くなったようで残念だ。