突破不能 白川又谷2
滝を越えたあとは巨岩が連なるゴーロ帯(岩がゴロゴロ転がっているところのこと)。
まるで恐竜の王国のようです。
ゴーロ帯を歩くこと数十分?
向こうに人工物が見えてきました。
関電の取水施設です。
「助かった~(何となく)」
もう時間的に遅くなってしまったので、今夜はここに宿をとります。
沢登りといえば焚き火。
ここに落ちていた流木は、とても乾いていて盛大な焚き火になりました。
焚き火を囲みながらUさんの話を聞く。
U親方は以前、この関電取水口からベテランMさんと入渓したことがあって
15分ほど行ったところにある長大な淵を越えることが困難なため、敗退したのだそうな。
話を聞き、一同あきらめモードに。
「明日はダメだったらさっさと諦めて温泉入りに行きましょう。」てな感じに落ち着きました。
そんなこんなで夜は更ける…。
翌日、みんな諦めムードのため、ちんたら朝飯を食べてのっそりと出発。
堰堤の横を通らせてもらい、堰堤上から入渓。
堰堤から上流は心なしか水がキレイな気がしました。
少し泳ぐところはあるものの、しばらく(15分くらい)は平和な沢歩きが続く。
ここも遡行対象らしいが、この入り口はいかにもやばそうでぜんぜん行く気がしない。(そのうち行く時があるでしょうか。)
そこから歩いて目と鼻の先に
「おおー!!」と歓声があがる。
どうやらついに例の通過困難な淵へたどり着いたようだ。
曲がった先はすごい光景。
これが通過困難といわれる通称「長淵」の姿です。
両側が巨大な岩壁に挟まれた狭い水路がえんえんと続き
泳げば水流に押し戻され
両岸のコケでおおわれた壁は垂直に立ち登攀を許しません。
他のWEBサイトに書いてあるところによると
沢登り専門の精鋭がそろう山岳会である「大阪わらじの会」でさえ、この淵の通過に五時間を要したのだとか…。
前回(3年くらい前)この淵を途中まで攻略したU親方がロープをひいて泳いで行きます。
小さくなっていくU親方の姿。
一同固唾を呑んで見守る。
淵の奥で壁に張り付き何か工作しているUさん。
そのうちUさんの姿は壁の上に消えてしまった。
そのまま待つこと数時間。
時間経過が著しいので、Kさんが泳いで様子を見に行くことに。
遠目に何かやりとりをしている様子がみえたが、しばらくするとKさんは泳いで戻ってきた。
「Tさん(僕のこと)、ロープだけを持って空身でUさんのところへ行ってください。」と言われる。
これはもしや登攀困難な壁でもあるのだろうか?
Kさんは水から上がってしばらくは筋肉が硬直して口が利けずガタガタ震えていたかと思うと、
急に眠たくなったと言って昼寝をはじめた。
もしかすると低体温症の一歩手前だったのかもしれません。
それほどこの淵の水は深く冷たかった。
一人だけ3mm厚のウエットスーツを着ていましたが、それでも寒かった。
とにかくロープを入れた袋を引いて(写真の赤い袋)Uさんのところまで泳いでいきます。
淵の中には水流のきついところと緩やかなところがあって、水が壁に跳ね返ってジグザグに流れているような感じでした。
流れに逆らえなくなるところでは、対岸に行くと緩くて通過できたりすることも。
奥まで着いてみると、淵の途中で浅くなって足が着くところがあるのだけど
その地点の一歩手前というところで水流が一番強くなっていてとても泳ぎ着けなくなっています。
その一歩手前の左岸にハーケンが打ってあり、U親方はそれを使って左岸の壁を少し登ったところにいました。
「ロープの末端を投げてくれ」と言われたので末端を投げてよこす。
そのまま指示を受け、Uさんをビレイ(安全確保)する。
Uさんはハーケンを打ちながら左岸のテラスまで登り、そのまま岩溝を下りて淵まで降りた。
今度は僕がロープにアッセンダー(登行器)をセットして、ハーケンを回収しながら登る。
Uさんのいるところまで降りると、そのまま流されて淵の入り口まで戻る。
ロープに輪を作って三人で持ち、ホイッスルの合図でUさんい引っ張ってもらう。
あれだけ苦労した淵が、ロープを引いてもらうと楽に通過できます。
そうして、何とか足が着く地点までたどり着きました。
前回UさんとMさんはここで戦意喪失して敗退したらしい。
さあ、先を見に行こう!
またしても泳ぎ。
だけどここはあっさり越える。
その先に小さな滝が見えました!
あれが噂の突破不能の滝です。
滝の高さ自体は1~2mなんだけど、水流が強くて押し流されて突破できないのです。
ここで敗退して帰ることは半ば決定していましたが
せっかくここまで来たのだ。
せめて、ワントライ!と滝に挑戦しに行くことにしました。
すると、心配してKさんも着いてきてくれました。
滝の横には誰かがハーケンを打ち、カラビナとスリングが残置されているのが見えました。(写真奥)
なんとか死に物狂いで滝の横まで泳ぎ、この残置スリングをつかみ、奥のクラックをつかもうとしましたが届かず。
何度かトライしているうちにものすごく体力を消耗していることに気づく。
泳いでいるときは感じないけど、体温も相当下がっているのを感じ、危険を感じたのでここであきらめて滝から離脱。
命あっての物種。さらばじゃ。
流されながら最後の力をふり絞って撮った渾身の一枚。
この滝を越えたあとも延々と続く淵が見える…。
右に見える残置カラビナとスリングは、いつ誰が着けたものだろうか?
この滝に挑んだ男たちが残した最後の一太刀だろうか?
四時間にも及ぶ長い攻防を終え、淵を流れて帰る。
帰るときは十分もかかりませんでした…。
作戦を建て直し、来年はきっとあの淵の先を見るぞ!